代表メッセージ

以下は、私自身を対象にした「聞き書き」です。聞き書き人の会の設立背景や経緯などが、聞き書きのニュアンスとともによくわかると思いますので、どうぞご一読ください。

代表:文屋 泉(ぶんや いずみ)


聞き書きが私の新たなライフワーク

話し手 文屋泉さん(聞き書き人の会代表)
聞き手 石川智子(やかげ聞き書き人の会)
まとめ 竹内正弘(やかげ聞き書き人の会)


聞き書きへの熱い思い

聞き書きを始めたのは、2011年4月からでしたね。え、きっかけですか? それは、私の義理の母にあたる文屋種子が台湾の引揚者なので、戦前・戦中・戦後の頃に庶民が過ごしてきた生活の状況や庶民の思い・心の中をぜひ記録しておかなければならないという気がしてね。それで、あの頃のことをぜひ聞いてみたかったんですね。

それまでは、仕事をしていたので聞く機会もまったくなく、その頃に岡山の吉備人出版に山川隆之さんという代表がおられるんですけど、その人が岡山県立図書館で聞き書き人の会の立ち上げをしたんですね。それで、それを山陽新聞で見たと思うんですけど、庶民の生活を記録して、それを歴史として次世代に残すということをやりませんかと呼びかけがあったんです。義理の母の台湾引き揚げということを書きたいと思っていた時に、その話があったもんで、それで聞き書きをしようと心に決めたんですね。

4月7日に退職歓送迎会があった日のお昼に、山川隆之さんの呼びかけで1回目の会合があったんです。その夜に退職の打ち上げがあり、37年間勤めた仕事に区切りをつけそれで完全に聞き書きの方にシフトしましたね。

仲間とともに

どういうきっかけで仲間が集まったかって? それは、それぞれだったと思うんですね。私のように戦争の頃のことを書きたい人もいましたね。岡山県立図書館の2階に郷土資料を集めているコ-ナ-があるんですけれども、そこにグループ研究室が2部屋あるんです。その1部屋がいっぱいでね。だいたい10何人しか椅子が用意されていない所に、最初は30人ぐらいが集まっていて、この先どうなるんだろうと思っていたら次から急に減って、半分ぐらいになっていたんですね。最初にいた人は、山川隆之さんと今事務局をしてもらっている正保潤子さんと私の3人ですね。後は全部入れ替わりです。で、今12人ですね。

聞き書き人の会が立ち上がって以降、途中から助成金の関係なんかがあって、私が代表になったんです。私の場合は、これがやりたいというのが最初にあって、そのためには第2のライフワ―クぐらいの位置づけでやっていますから少々のことではやめずにやろうと思っています。

ところで、岡山の「聞く、書く。」というのは、1冊500円で1年間に450冊出しています。制作費は書き手で出し合っているのですが、あんまり意義を見出せない人には何で自分が作品を書くのにお金をもらうんじゃあなくて、お金を出さなければいけないのかという考えがあるみたいなんです。だけど、私としては儲けというのは考えてなくて、かっこよく聞こえるかもしれませんが、これはやっておかなければならないことなんだと思ったんです。少々の持ち出しはあっても仕方がないんじゃあないかと思うんです。やはりそんなのんびりした考えの人は、そういないよとか仲間に言われてね。ちょっと甘いところがあると思うんですね。まあ私も退職してからは儲けと言うのは考えまいとボランティアで生きようと決意していましたので、少々の持ち出しはあっても仕方がないなと思ってやっていますね。ただ、これからはプラスにはならなくても、なるべくマイナスにはならないようにしようと考えているところです。

話し手選び

聞き書き人の会に、だんだんといろいろな地域の人が加わるようになり、今では福岡県とか香川県とか広島県などの人も参加しています。年代も30代前半の人、50代、60代、70代、今顧問をしてもらっている人は、90代ですけど、さまざまな年代の人が参加してくれています。 

そういう中で、テ―マが私のような戦前、戦中、戦後という困難な時代に生きていた人の記録を残そうという人もいます。また、今あるさまざまな問題のうち自分が最も興味のある問題について、ぜひこの人に話を聞きたいという人を話し手に選ぶという人もいます。例えば30代の会員ですが、広島県の小さな島から鯨を取りに長崎県の方まで行った人の話を聞きたいと言うので、「聞く、書く。」10号で聞き書きをして載せているんですね。あるいは、トランスジェンダーの人に話を聞いて、まとめている人もいますし、テ―マがさまざまなんですね。それぞれに自分が聞きたいテ―マの話し手を選んで、話を聞いているというようなことですね。

記憶されたものだけが記録にとどめられる

今、ウクライナの問題もありますけれど、結局時代の中で翻弄されていくのは弱い立場の人間だと思うんですね。引き揚げの時に、もろに大変さを被ったのは女性や子どもでもあるわけですね。やはりそういうことをきちっと記録として残しておかなければならないし、普通の人が普通に生きられる時代じゃあないといけないということを伝えていかなければならないと思うんですね。宮本常一さんの言葉に「記憶されたものだけが記録にとどめられる」というのがあるんです。結局記録を残すことで、その時代の記憶を呼び覚まして、二度とそういうことがおきないようにすることができるのではないかと思うんですね。

聞き書きの喜び

聞き書きをしての喜びですか? それは、話し手の話を聞いてすごく勇気を与えられるところですかね。私の場合は、戦争体験の人達の話ですね。朝鮮引き揚げ、台湾引き揚げ、シベリア引き揚げ、満州の少年義勇軍などの話を聞く中で、困難な時代でも負けずに生きようとする人間の力というものを感じますね。困難な時代を生き抜いてきた人達のすばらしさを記録として残していく中で、勇気づけられるということが1番の喜びですね。

「聞く、書く。」10号に朝鮮から引き揚げた人の話をまとめたのですが、その人の人生が波乱万丈だったということもあるんですけれども、話自体がすごく面白くて、それで夢中になって聞いたんですね。まとめを読んでもらった後、話し手から自分が話をしているように書いてくれて嬉しいと言われた時に、やっぱりこれがねらいだったもので嬉しかったですね。その人と同じ経験を生きているような感じに思えることがありましたね。それが面白いですね。

いつまでも続けたいライフワ―ク

聞き書きは、聞きたいことをまとめて記録に残し、それを次世代に伝えていこうとするものです。やっぱり歴史に学ばないと現代が学べませんので、そういうのをしていきたいし、それから会員にいろいろな地域の人が増えましたので、矢掛もそのひとつなんですが、それぞれの地域で聞き書き活動をしている人との交流も深めていって、地域の活性化へ繋げていけたらなと思いますね。

この前、東京で『東京の生活史』(筑摩書房)という聞き書き集が出されました。ああいうものができたらいいなと吉備人出版の山川隆之さんが「聞く、書く。」10号の巻頭に書いています。「岡山の生活史」、「矢掛の生活史」、今福山を立ちあげようとしてしいるので「福山の生活史」、香川が立ち上がれば「香川の生活史」というふうにずっと広がりをみせていったら面白いと思うんですけれどもね。それぞれの地域の特色を生かしながらいろんな地域の人との交流の中で、都会にはない住んでいる地域の良さを発見していくと面白いと思います。聞き書きは、いつまでも続けたい私のライフワ―クですね。